コントローラの電圧降下を考慮した電源電圧の選定
maxonのコントローラは、機種応じ、最大デューティー比が90%~98%のPWMによりモータを駆動します。このため、コントローラ出力側のPWM平均電圧の最大値は、供給電圧の90%~98%となりますが、実際には、コントローラ内部の抵抗による電圧降下もあり、出力電圧はさらに下がる事象について、簡単な実験例を以下にお示しします。
a) 実験で用いた部品
実験では、下図の12V仕様のブラシ付きDCモータを利用しました。外径22mm、長さ34.2mmです。
上図のモータの後部に下図のエンコーダを取り付けました。4逓倍前の分解能は1024です。A相、B相、I相と、これらの反転信号を出力します。
実験で用いたコントローラは、回転数制御用のESCON 36/2 DCです。PWMの最大デューティー比は98%、最大連続電流は2A、最大効率は95%です。
b) モータを定電圧電源で駆動した場合の無負荷回転数
定電圧電源の出力電圧を10.0Vに設定し、この電圧をモータ端子に直に印加した際の無負荷回転数を測りました。モータ出力軸が1回転するごとに、I相が1パルス出力するので、今回の実験ではI相のパルス周期を回転数に換算する方法をとりました。結果は、10370rpmでした。また、モータに流れ込む電流は、約70mAでした。
c) モータをコントローラで駆動した場合の無負荷回転数
つづいて、モータをコントローラで駆動した場合の無負荷回転数を同様な方法で測りました。モータが10000rpmで回転するよう、コントローラに指令値を入力しましたが、実際の回転数は9890rpmまでしか上がりませんでした。定電圧電源で駆動した場合とくらべ、回転数が約5%下がっています。なお、9890rpm時にコントローラに流れ込む電流は、約260mAでした。
d) 回転数が低下した理由
定電圧電源の出力電圧を変化させながら、モータの無負荷回転数を測ると、以下のようなグラフを得ることができます。DCモータでは、無負荷回転数とモータ端子の印加電圧が比例関係にあり、マクソンのカタログでは回転数定数(kn [rpm/V])として記載しています。
今回の実験では定電圧電源を利用したものの、コントローラの内部抵抗による電圧降下および、PWMの最大デューティー比の制約により、モータ端子に印加できた電圧は、供給電圧とくらべ約5%低く、つれてモータの無負荷回転数も約5%低下したと考えられます。
e) コントローラ内部抵抗による電圧降下の見積
実験c)において、下記を考慮すると、約260mA流入時のコントローラ内部抵抗による電圧降下を0.27Vとも見積もれます。
- PWMのデューティー比が98%
- 出力電圧Voutが供給電圧Vccから約5%低下
一方、maxonの各コントローラのマニュアル(Hardware Reference)には、コントローラに最大連続電流を流したときの、内部抵抗に伴う電圧降下の最大値を記載しています。たとえば、今回のESCON 36/2 DCでは、2A流入時の電圧降下が最大1Vです。
上図によれば、供給電圧Vccが10.0V、電圧降下1Vで、PWMデューティー比が98%の場合、出力電圧Voutは供給電圧から約12%低下との見積りとなります。
PWMの最大デューティー比が90%である機種もあることをふまえ、maxonでは、駆動に必要な電圧の最大値に約20%上乗せした電源電圧を、カタログ等で推奨しています。
(HIIT)