コアレス仕様のブラシ付きDCモータのブラシレス化検討(応答性や出力特性の比較)
ブラシ付きDCモータをブラシレスDCモータに置き換えるご相談をいただくことがあります。両者のメリットやデメリットについては、別のコラムにもまとめさせていただいております。
本コラムでは、maxonの標準カタログに掲載されている値を利用して、ブラシ付きDCモータとブラシレスDCモータの応答性や出力特性の比較を試みます。なお、当社のブラシ付きDCモータはコアレス仕様のみですので、ブラシレスDCモータ側もコアレス仕様に限定し、以下6品種について比較します。
No. | 製品シリーズ名 | 概要 |
1 | ECX SPEED | コアレス仕様のブラシレスDCモータ |
2 | EC-max | ECX SPEEDの廉価版 |
3 | DCX | コアレス仕様のブラシ付きDCモータ |
4 | DC-max | DCXの廉価版 |
5 | RE | DCXの従来機種 |
6 | A-max | DC-maxのアルニコ磁石仕様 |
※当社製モータの分類の詳細については、こちらからご覧いただけます。
今回のコラムにおいて、応答性の比較に用いる指標は次のとおりです。
1.応答性の比較①(応答性 vs. モータ外径)
上記の各指標を縦軸に、モータ外径を横軸にとると、下のグラフのような関係が浮かび上がります。
実際には、外径が同じでも、モータ長さや巻線の径などのバリエーションにより、さまざまな仕様がありますので、ここではモータ外径ごとに各指標の平均をとり、トレンドを見たものとなります。
電気的時定数のグラフを見る限り、ブラシ付きDCモータとブラシレスDCモータの差は大きくなさそうです。コアレス仕様のモータの時定数は大変小さいのがメリットである反面、インダクタンスが小さいので電流リップルも大きくなる傾向にあり、電流の実効値の増加と相まってモータが発熱しやすくなるデメリットもあります。1.応答性の比較①(応答性 vs. モータ外径)
上記の各指標を縦軸に、モータ外径を横軸にとると、下のグラフのような関係が浮かび上がります。
実際には、外径が同じでも、モータ長さや巻線の径などのバリエーションにより、さまざまな仕様がありますので、ここではモータ外径ごとに各指標の平均をとり、トレンドを見たものとなります。
機械的時定数やトルク出力密度のグラフからは、全般的に廉価版の方が応答性に劣る点が確認できるものの、EC-maxは、ロータ構造の簡素化により磁石を大きくとれるため、廉価版にしては出力トルク性能が良いともいえそうです。
ロータ慣性モーメントのグラフからは、ブラシレスDCモータの方がイナーシャの小さいことが確認できます。ブラシ付きDCモータとくらべ、ロータ外径が小さい構造のメリットともいえそうです(下図)。
2.応答性の比較②(応答性 vs. モータ長さ)
モータ外径よりも、モータ長さが選定上のネックとなるケースがあります。
ここでは、モータ外径を16mmに固定した状態で、縦軸を応答性、横軸をモータ長さとした場合を検討します。この例では、同一外径内の仕様差(巻線径のバリエーションなどに起因)がグラフに表れます。
先ほどと同じように、ブラシレスDCモータの方がロータ慣性モーメントは小さいといえます。一方、ロータ外径が小さく、トルクを発生させる観点からは不利なため、ブラシ付きDCモータと同等なトルクを発生させようとすると、モータ長さを伸ばさなくてはならないことが、トルク出力密度のグラフから観察できます(40mm長さのECXとDCXを比較)。
あわせて、廉価版のEC-maxの方が、ECX SPEEDよりも短いモータ長さで同等なトルクを出力できることも確認できます。ロータ構造を簡素化し、磁石を大きくした結果といえます。反面、EC-maxのデメリットとしては、高い回転数に不向き(振動面で不利)なところがあげられます。しかしながら、ブラシとの摺動により回転数の制約を受けるブラシ付きDCモータからの置き換えには、依然十分な回転数を有するものと考えられます。
なお、EC-maxには電源に直接つなぐだけで回転する、「ドライブ回路内蔵」タイプも存在します。くわしくはこちらをご覧ください。
3.出力特性の比較
先ほどのケースでは、廉価版のEC-maxの方が、ECX SPEEDよりコンパクトでありながら、同等なトルク出力を得られる点を確認しました。
ECX SPEEDがEC-maxに対し技術的に優位な点は、最大回転数の高さと、それを可能にした設計にあります。下のグラフはモータ外径を16mmに固定した状態で、各種出力特性とモータ長さの関係を表したものですが、ECX SPEEDはトルクが低いながらも回転数が圧倒的に高いことが確認できます。このため、トルクと回転数の積である出力の値は、ECX SPEEDでは(トルクが低いにも関わらず)高くなります。モータ選定の際は注意が必要です。
また、ブラシ付きDCモータをブラシレスDCモータに置き換えることを狙った検討においては、ECX SPEEDの回転数は高すぎるうえ、電圧を下げて回転数を下げようとすると、トルクも連れてさらに低下する問題があります。トルクとスピードのバランスが、ブラシ付きDCモータとは大きく異なる点にも配慮を要します。
4.ブラシレスDCモータをどう制御するか
ブラシレスDCモータでは、ブラシが無いため、電流のスイッチングをモータ外部の電子回路で行う必要があります。どのようにモータを制御するか、選択肢のある点がメリットともいえます。
モータがただ回転すれば良いのであれば、制御の容易さから、120°通電制御(矩形波)がベストと考えられます。デメリットとしては、発生トルクに脈動が生じる点や、モータが本来持つトルクをすべて引き出せない点があげられます。しかしながら、ブラシ付きDCモータでも発生トルクは脈動している点は留意したいところです。くわしくはこちらのコラムもご覧ください。
制御が複雑にはなりますが、応答性を追求する場合には、ベクトル制御(正弦波)が適するものと思われます。原理的に発生トルクが常に最大値をとる点など、モータに本来備わった性能をより多く引き出すのに向くと考えられるからです。反面、この制御を成立させるため、コントローラ側の性能とのトレードオフに直面する場面があるかもしれません。
なお、maxonのカタログ掲載値は、こちらの方法で測定したものとなっております。ベクトル制御を行う場合は、カタログ値を上回る性能を引き出せる可能性があります。
(HIIT)