第34回 全日本学生マイクロマウス ロボトレース優勝 梅本篤さん 後編
前回に引き続き、第34回 全日本学生マイクロマウス(2019年10月開催)のロボトレースで優勝を果たされた梅本篤さんにお話をうかがいます。
― 今大会のマシンについて、簡単な特徴を教えていただけますか
「今回のマシンの特徴はやはりドローン用のモータとプロペラを組み合わせて実装した、ダウンフォースユニットです。ロボトレース競技は吸引が禁止されているため、このような機構を用いて強制的にダウンフォースを発生させてグリップ力を高めています。
しかし、このような機構を搭載すると、路面との抵抗も増えるため、モータに関してはより小型で高出力なものが要求されます。
モータやバッテリなどマシンを軽く仕上げることが出来れば、必要なダウンフォースユニットの出力も小さくできるため、結果的にこれらの設置圧向上ユニット自体の重量も小さなものに変更できます。そのため相対的なマシン重量の軽量化が狙えます。」
― maxon製品をご採用いただいた理由をお聞かせください
「これもまた平井さんのマシンを分析しているうちに周りのマウサーから、maxonのDCX10は小型で高応答だと耳にしたことがきっかけです。
しかし当初はそういった理由よりも、アニキ(平井さん)が使っているからという理由が大きかったと思います。」
― 実際にご使用されて如何でしたか
「やはりmaxonの製品は、かなり信頼性が高い印象です。
2019年のマシンは定格4.5VのDCX10Lを12V前後の電圧で運用していますが、それでも一切壊れたためしはありませんし、壊れた際にすぐに対応できるよう、予備でもう1セット購入させて頂きましたが、結局、全日本大会まで無茶な運用をしても予備のセットを使用することなく大会へ出場することが出来ました。」
― maxonのモータはマイクロマウスにはちょっと(寸法が)長すぎる、と以前にうかがったことがあるのですが、その辺は如何でしょうか
「マイクロマウス(クラシック競技用マシン)には確かにまだ長いように思います。そのため、クラシック競技用のマシンでは、2つのモータ(DCX10L)を二段に積んだり、前後に分けたりして使用されている場合が多いです。
しかし、トレーサ競技の場合はマシンの横幅に余裕があるため、ほとんどの方がそのまま横に並べて使用しています。寧ろ吸引が禁止されているロボトレース競技では、どれだけ低重心に作るかがカギだと思っているので、多少長くてもモータ径を小さく抑えたい傾向にあります。
そのため、上位層でも低重心を図る為にドローン用の径の小さいモータコアレス(0615サイズなど)を4つ搭載するといったマシンもちらほら見かけます。」
― マウサーの皆さんはあらゆる用途のモータの製品情報を網羅して、その中から最適なモータを選択されているということですね。
maxonのモータに要求されることは何でしょうか
「信頼性と品質、これに限ります。上で書いたようにドローン用のコアレスモータなどを使用すると一旦は早いマシンが出来上がるかもしれませんが、大変運用に苦労すると感じています。いつ壊れるかもわかりませんし、壊れたからと言って交換しても、中華モータはかなり個体差があるので同じ動作をしてくれるとは限りません。それと制御に使うロータリーエンコーダなども自作することになるので、ある程度工数はかかりますし、物が完成しても軸などのズレから、正しい値が取得できるとも限りません。
しかし、maxonモータであれば、初めから高精度のエンコーダが実装されて手元に届きますし、品質のばらつきも少ないため、デバックの際などはモータ制御に関してはある程度確かなものとして扱うことが出来ます。」
― 制御回路(モータコントローラ)は、自作ですか
「制御用のモータードライバは東芝のTB6614FNGを使用しています。
Hブリッジ回路を自作することも出来ますが、そこまでの時間的余裕はないため、ある程度形になったものを使用することで他への開発に注力することが出来ます。
ちなみに2020年のマシンではLipoバッテリの4S(16.8V)に対応するためにテキサス・インスツルメンツから出ているDVR8874を使用する予定です。」
― maxon製品に関して、何かご質問などありますか
「今後DCXシリーズからECXシリーズへの置き換えを少し視野に入れているのですが、ブラシレースモータはブラシ付きDCモータと比べてマイクロマウスのような細かくて速い制御が求められる競技に置いて優位性はあるのでしょうか。」
― ありがとうございます。
応答性という意味では、モータデータの機械的時定数の値をご参考にしてください。
ブラシ付き、ブラシレスのどちらが有利というよりは、機械的時定数の値が小さい方をご参考に選定されればよろしいかと思います。
ただ、強いて言うならばDCXとECXを同サイズで比べると、バージョンがあるECXの方が(機械的時定数も小さいので)有利かもしれません。あとは、実際の負荷に対するトルクが出せるかという点が重要になるかと思います。
― 梅本さんはYEP*もご利用くださっていますが如何でしたか
*YEP: Young Engineer Program
maxonグループがワールドワイドで《若いアイディア(新しいアイディア)》を支援するプログラム。(年齢的な若さを対象にしているわけではありません。)
規定のフォームに、英語で必要事項(アプリケーションの説明など)をご記入の上申請。maxonグループで審査の上、期間や割引率、上限額などを決定。その内容に基づき、maxonオンラインショップでお好きな製品をディスカウント価格でお求めいただけるプログラム。ただし、製品購入はmaxonオンラインショップ経由限定となるためカスタマイズは不可となる(オンライン上でカスタマイズできる範囲についてはカスタマイズ可能)。
尚、本プログラムはmaxon スイス本社主導のため、予告なしに終了することがあることをご了承ください。
「英語で書類を作成するのは、自分はかなり手間取りましたが、YEPの恩恵はそれを考慮しても十分すぎるくらいにあると思っています。YEPに参加させて頂いた当初はまだ学生だったこともあり、経済的な余裕はありませんでした。そのため、もし、大会前にモータを燃やしてしまってはもうおしまいです。YEPの制度を使用し、予備のモータを購入できたからこそ、全日本大会直前にも無茶な運用で思う存分にハードのデバッグを行えました。今回の全日本大会で限界に近いパラメータを引き出せたのはこの絶対的な安心感がなければ不可能だったと思います。
今後もモータを購入する上で、YEPを適応頂ける機会はあるのでしょうか。」
― 前回申請いただいたものについては、期限と上限を越えてしまうとご利用いただけなくなってしまいますので、再度、申請していただく必要があります。また、社内の審査があるため、現時点での確約はできませんが、今後もご利用いただけるようにマクソンジャパンとして、本社にプッシュしてゆきたいと思っています。
― 今大会で優勝されたことで、何か変わったことはありましたか
「2019年の全日本大会優勝と、2018年の全日本大会準優勝では、身近にそれほど何か変わった印象は無い気がします。しかし、2017年(全日本大会16位)と比べると、大会会場なので話しかけられる機会や、それまで話したことがない上位層の方との交流も増えた印象です。やはり順位が上がるとそれだけで人脈の幅が広がっていく気がします。」
― 梅本さんはこの春から新社会人となられたということですが、マイクロマウスに携わる時間は減少しましたか。また、これからも継続される予定でいらっしゃいますか
「もちろん継続して大会へ参加していくつもりです。しかし、かなり仕事の方も忙しいので、実際学生だった頃と比べるとマイクロマウスに打ち込める時間はかなり減っています。」
― マイクロマウスを通じて学んだことなどあれば教えてください
「マイクロマウスで学んだことは膨大過ぎて、というか今の自分のスキルのほとんどがマイクロマウスと通じて取得したものなのでパッとすぐに出てきませんが、今の会社で使用している組み込み技術(回路設計やプログラミング、機械設計)などはすべてマイクロマウスに挑戦するために自ら取得してきた要素だと思っています。」
― 今後の展望や目標をお聞かせください
「今後もマイクロマウス大会に参加していくつもりです。去年までは僕は学生だったので、マイクロマウスに費やせる時間は他の社会人競技者よりも多くありました。そのため、本当の戦いは今年からだと思っています。
時間に制約は多々ありますが、春からモータースポーツ関係の企業で働かせていただいているので、それらのノウハウも蓄積していき、マイクロマウスと相互にフィードバックすることで、さらなる高みを目指していけたらと思っています。」
もりだくさんのお話をありがとうございました。マイクロマウスとの出会いによって拓かれた梅本さんの歩む道に、maxonが少しでも携われているのなら光栄です。これからもよろしくお願いいたします。
YEPはどなたでも応募が可能です。新しいアイディアを形にするためにmaxonの製品を採用されるご予定があれば、ぜひ、YEPへの応募もご検討ください。
YEPの応募ページはこちら。