1. HOME
  2. ユーザーレポート
  3. 第34回 全日本学生マイクロマウス ロボトレース優勝 梅本篤さん 前編

REPORT

ユーザーレポート

第34回 全日本学生マイクロマウス ロボトレース優勝 梅本篤さん 前編

マイクロマウスとはコンピュータを搭載し、自律制御で未知の迷路を走破してゴールへ到達するまでの時間を競うロボット競技です。競技名の「マウス」は、迷路実験をネズミで行うことが由来です。複数回走行することができ、その中から、ロボット自ら未知の迷路を探索し最短コースを導き出す頭脳戦でもあり、また、高速での走行が求められるため、ロボットの知性と動作性能の両方が問われる競技です。

第34回 全日本学生マイクロマウス(2019年10月開催)のロボトレースで優勝を果たされた梅本篤さんにお話をうかがいました。
ロボトレースは、黒い床に引かれた白いラインの周回コースを走る時間を競う競技です。迷路を探索することはありませんが、コースの形状を正確に記憶し、直線は早く走行し、カーブに合わせて減速するため、スピードコントロールを求められます。

― マイクロマウスは(学生から社会人まで出場されるという意味で)出場者の裾野の広い競技かと思いますが、いつ頃始められたのでしょうか。またきっかけも教えていただけますか

「始めたのは高校生の時にロボトレース競技の見学に行った事がきっかけです。
当時からWROというレゴマインドストームを使ったロボットコンテストに出場していたのですが、そこで見た当時の全日本チャンピオン*からは、それとは全く違うモノづくりの奥深さと、競技者のこだわりを感じ取れました。
マイクロマウス大会に出場している競技者のほとんどが、1から電子回路を組んだり、マシンが自律的に走行するためのプログラムを書いたりしています。
そんな個人のこだわりを一から注いだマシンの走行を見て、高校卒業間際の僕は、これからの僕の時間を全てこれに費やす事が出来たらどれだけ充実した日々になるんだろうと、ワクワクした気持ちになりました。それと同時に当時の自分と他の競技者との技術レベルの差に、酷く落ち込んだ事を覚えています。
しかし、見学から帰った後は、もうひたすらにどうすれば自分もこの競技に出場して、同じ次元で戦えるかを考えたり、彼らと対等に話している自分の姿を想像しては武者震いをしていたと思います。」

*当時のマイクロマウス大会 ロボトレース競技の全日本チャンピオン:平井雅尊さん。マイクロマウス界隈では有名な平井兄弟の兄。近年ではご自分の勤務先企業の主催大会としてのマイクロマウス競技会を企画するなど(2020年は残念ながらコロナウィルスのため中止)マイクロマウス界や技術者教育への情熱や貢献度は大きい。

第34回 全日本学生マイクロマウス ロボトレース優勝 梅本篤さんのマシン

― マイクロマウスの大会は支部大会、学生大会、全日本大会、など色々あるかと思いますが、どのような出場大会の変遷を経てきたのでしょうか

「まず当初は、やる気はあったものの、大会会場で見たオリジナル基板のライントレーサーを作る事はおろか、どうやってモータを任意のスピードで回しているのかすら検討がつきませんでした。
ネットで調べてもよくわからないので、彼らと直接連絡を取るため、悩んだ末に普段自分が使用していたレゴマインドストームで大会へ出場する事にしました。大会前日は、自分みたいな大したスキルもない人間が話かけても、軽くあしらわれるのではないかと不安でした。しかし大会当日は、出走を控えている他大学の競技者の方でも快く質問に応じてくれました。ただ事前知識が全く無かったので半分以上は何を仰っているのか理解出来ませんでしたが(笑)。
そこからは他の競技者たちから、部品の発注先やトレンドなモータの情報などを教えて頂き、その結果今に至っていると思います。
マイクロマウス大会のいい所は他のロボコンと違い、競技者同士が技術的にオープンな所です。それは順位のレンジが上がってきたとしても全く変わりません。私を含め彼らはマイクロマウスで培った技術は仕事にも大変応用が利く内容であるため、お互いの技術レベル向上のためにも日々情報交換を欠かしません。」

― 梅本さんはマイクロマウスの世界ではすでに有名な方だとお聞きしていますが、これまでマイクロマウスをやってきて一番印象に残ったことは何でしょうか、また、今回の大会出場(優勝)で感じたことをお聞かせください

「やはり昨年の全日本大会で優勝した事は印象深いです。
始める前も始めた当初もまさか全日本大会で優勝するなんてことは夢にも思っていませんでしたので。
(マイクロマウスを知った)当時から雲の上の人だった方(前述の平井さん)とワンツーで成績を残せたことは私の人生でこれ以上ない経験だと感じています。
しかし1番印象に残っているのは去年の関西地区大会です。マイクロマウス大会は全日本大会までに9つの地区大会が行われます。去年は開幕戦の金沢草の根大会と関西地区大会の間の期間が1週間しかなく、体力的にもかなり厳しい内容だったのですが、当時私は学生で時間もあったため、オフシーズン中は平井さんのマシンスペックを意識して、かなり強力な機構を実装する予定で設計を進めて来ました。もちろんSNS等にも情報は載せずに隠れてです。
そのこともあって金沢大会では初めて平井さんに勝つことが出来たのですが、翌週の関西地区大会では原理は同じなのですが、僕の搭載していたユニットのスペックを軽く上回る機構を搭載されていて、やられたと思いましたね。
「梅本くんが良さそうだったから私も付けてみたよ(笑)」と、たった一週間で、何処から部品を調達して、実装まで済ませたのか本当に不思議で驚きました。仮にAmazonのお急ぎ便で来ても私には真似できません。」

― 今回のマシン制作でご苦労された点を教えてください

「”今回は”と言うより”今回も”ですが、特にモータの制御に苦労しました。これは何時になっても苦労する問題です。
しかし今回に関して言えば、特に加減速走行時の、マシンが最小コーナー(最低速度)から脱出する際の制御に苦労しました。
理想としては、コーナーからマシンが脱出する際は、タイヤのグリップが許す限りの最大加速度でマシンを加速させたいのですが、ギヤ比とバッテリの能力の問題で、思った以上に加速度(トルク)が出ません。そのトルクに上がない状態でマシンを制御しようにも上手くコントロール出来ずに結果コースアウトしてしまいます。

単にギヤ比を上げれば低速走行時のトルクは出るのですが、その分トップスピードは出ないのでこれは難しい問題ですね。
今回に関しては、走行時の加速度指令値とモータへのdutyの割合を監視して、dutyが100%付近で使用されている場合は、自立的に目標加速度を下げるアルゴリズムを実装してコースアウトを防いでいます。」

第34回 全日本学生マイクロマウス ロボトレース優勝 梅本篤さんのマシン

― maxonのモータはいつからご採用いただいていますか、また、そのきっかけなどあれば教えてください

「maxonモータは2018年のマシン(2代目)から使用しています。(現在は3代目)
知ったきっかけは平井さんのマシンを写真などで分析したことからです。」

― 平井さんの影響は絶大ですね。ただ、どの競技でも、強い方にご採用いただくと他の競技者の方も追随してくださいます。梅本さんがご採用くださったことで、また他の競技者の方が追随してくださっているかと思います。ありがとうございます。

まだまだお話をうかがっていますが、後編に続きます。