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コラム

和訳の難しい科学技術英語 ”Commutation”

弊社カタログの原文はドイツ語ですが、ここから日本語版を作成するにあたり、和訳が特に難しい
”kommutierung”というモータ専門用語の扱いについて、背景をご紹介します。弊社製品に対する理解を深めていただく一助となれば幸いです。

”kommutierung”は、電流の流れる方向の切り替えを意味する言葉で、ブラシ付きDCモータにもブラシレスDCモータにも同じように使える便利さがあります。約600ページある弊社カタログでは、200回以上登場する頻出用語のひとつです。

この英訳が”commutation”であり、日本語では「転流」や「整流」と訳されます。弊社カタログにおいては、「転流」と「整流」の使い分けだけでなく、文脈によっては「転流」「整流」以外の日本語をあえて適用するなど、日本国内でも違和感なく受け入れていただけるよう努めています。このような具体例を以下に5つ取り上げます。

例1.
”commutation”がブラシ付きDCモータに関連して使われるときは、このモータが電動機であると同時に発電機としても用いられてきた歴史的な経緯や、それに伴う国内の慣習を踏まえ、交流を直流に変換する意味での「整流」を和訳にあてています。

(例) Graphite commutation ⇒ グラファイト整流、 Commutation pattern ⇒ 整流波形

例2.
”commutation”がブラシレスDCモータに関連して使われるときは、モータ外部のインバータが電流の切り替えを担う点を考慮し、主に「電子整流」または「転流」を和訳にあてました。

(例) Electronic commutation ⇒ 電子整流

例3.
“commutation”は、ブラシレスDCモータの矩形波駆動を説明した下図(原文のまま)でも使われています。

Blockkommutierung (英訳: Block commutation)の直訳は、「矩形波転流」や「矩形波整流」となるものの、日本国内でより一般的と思われる「矩形波駆動」を併記しました。また、類似例として、Sinuskommutierung (英訳: Sinusoidal commutation)を直訳した「正弦波整流」に関しては、ブラシ付きDCモータの整流曲線の一種としての意味もあります。曖昧さ回避のため、こちらも「正弦波駆動」を併記とし、「矩形波駆動」と名称を合わせました。

注:ブラシと整流子(commutator)の相対移動に伴い、巻線内で電流の流れが反転する際の、電流vs.時間の波形の形状

例4.
コアードタイプ(コア付き)のブラシレスDCモータの特徴を箇条書きした箇所で、”Kleinere Kommutierungsschritte” (英訳: “Smaller commutation steps”)という表現が登場します。直訳は「より小さな転流ステップ」ですが、初見では理解しづらい表現かと思われます。

これは平たく言えば、コアードはコアレスとくらべ、永久磁石の極数が多いことの結果です。具体例として、2極のブラシレスDCモータ(コアレス)と8極のブラシレスDCモータ(コアード)を比較しますと、前者では、例3の図の電気角360°が出力軸の1回転(機械角で360°)と一致しますが、後者では、電気角360°が出力軸の1/4回転(機械角で90°)にしかなりません。ここで、両者を同一回転数で駆動するには、前者が電気角で360°回転するのと同じ時間で、後者を電気角360°x4 = 1440°回転させる必要があります。例3の図においては、通電モード(Ⅰ~Ⅵ)の切り替えを後者では4倍速くすることになります。以上をふまえ、”Smaller commutation steps”には、「通電モードの切り替え周期が小さい」を意訳として適用しました。

例5.
弊社のエンコーダ製品のカタログページにも、”Kommutierungssignalen” (英訳: “Commutation signal”)があります。直訳は「転流信号」です。これは、例3の図の各通電モード(Ⅰ~Ⅵ)の切り替えタイミングとなる、ホールセンサ信号のことを意味しています。エンコーダの出力に、ホールセンサ信号も含むことを伝えたいのですが、「転流信号」という言葉を市販の入門書であまり見かけないこともあり、日本語版のカタログでは、「ホールセンサ出力」や「ホールセンサ信号」と訳しています。なお、このタイプのエンコーダでは、実際にホールセンサが3個入っているわけではなく、エンコーダがホールセンサを模した信号を出力します。

(HIIT)