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レーシングドライバー セバスチャン・ブエミ ~ 最大のチャレンジは、自信を持ちつつも謙虚でいること

スイス出身のレーシングドライバー、セバスチャン・ブエミは、2019年からmaxonのアンバサダーに就任しています。
2025年5月に日本で開催されたフォーミュラE Tokyo E-Prixに出場するため来日した同氏がマクソンジャパンを訪問してくださいました。

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ー 今日はご来社いただきありがとうございます。5月9日のレースでの優勝*おめでとうございます!

「ありがとうございます。」

ー 勝利の実感はいかがですか?

Sébastien Buemi 「本当にうれしいですね。というのも、しばらく勝てていなかったんです。優勝回数はこれまで14回あるのですが、長い間優勝から遠ざかっていました。
3年前にチームを移籍して以降、2位や3位になれても、なかなか優勝はできなかったんです。時々「自分はまだ勝てるのかな?」と、自分自身を疑ったりもしました。ポールポジションも多くて、勝利数も多いのに「もう勝てないのではないか」「自分はもうダメなのかもしれない」と思ってしまうこともありました。
だから今回のレースは本当によかったです。すべてが完璧にかみ合って、運じゃなくて、実力で勝てた。僕たちの方が他のチームより上回っていたという意味でです。自分にとってもチームにとっても、自信になるし、とても大事な勝利でした。今年はずっと厳しいシーズンだったので、嬉しいというより「ホッとした」感じですね。

僕には子どもが3人いて、そのうちの1人が、僕が表彰台の一番上に立っている絵を描いてくれました。それをマシンのシャシーの中に入れてあるんです。彼が生まれてから、ちゃんと「勝つ」ということができていませんでした。赤ちゃんの頃には一度勝ったことがありましたが、彼はもう7歳だから、実質6年ぶりの勝利でした。今回やっと勝てて、本当に誇らしかったです。彼のために勝てたと思いました。
努力を続けて、自分を信じ続けることの大切さを改めて実感しました。口で言うのは簡単だけど、実際に自分の能力を信じることはとても難しいことです。」

ー レースは、自分自身とチームを信じることが大切がとても重要な世界ですね。

「そうですね。「チームが悪い」とか「自分が悪い」とか、つい言い訳をしたくなります。
でも、しっかり働いて、そしてチームと自分の能力を信じなきゃいけない。もちろん現実的であることも必要で、物事がうまくいっていないなら、それを見つめて対処しなければなりません。
一度マシンに乗って、レースが始まってしまえば、もう仕様は変えられません。そうなったら、自分とチームを最大限信じるしかないんです。実践するのはなかなか簡単ではないですね。」

― 私たちの仕事でも共通する感覚だと思います。私たちの仕事もチームワークが大事です。営業マン1人では製品は売れません。サポートスタッフやマーケティング活動、技術サポートとか、いろんな支えが必要です。

「その通りです。皆さんにとっても、それはすごく大事なことだと思います。」

ー 子ども時代についてもお聞かせいただけませんか。レーサーは一般的にすごく特別な職業ですよね。私たちにとっては遠い世界なので、何がきっかけだったのか知りたいです。

Buemi「両親はスイスで自動車販売店を経営していました。祖父の代ではトヨタ車を扱っていて、両親の代ではフォルクスワーゲンを売っていました。従業員は30人くらいいて、車を販売したり整備したりしていました。
だから、僕は小さいころからずっとディーラーで育ちました。学校帰りや週末もいつもクルマのそばにいました。
父はもともと整備士で、F1をはじめとするレースが大好きでした。父は僕が5歳のとき、クリスマスにカートをプレゼントしてくれました。それで、そのディーラーの駐車場で運転を始めました。
サーキットにもよく連れて行ってもらい、レースにも出るようになりました。レースに出てみると、結果も良かったので、そのまま続けることになりました。

僕は幼いころから車に囲まれたいい環境で育ちました。レーシングは親のサポートが本当に重要なスポーツです。サッカーやテニスと違って、ヨーロッパ各地を移動しなければならないので非常にハードですし、費用もかさみます。家族全員で支えてくれないと続けられないスポーツです。

母が学業にとても厳しかったので、学校生活は大切にしていました。義務教育はきちんと17歳まで終え、高校にも通いましたが、レッドブルがキャリア全体をサポートしてくれることが決まったときに退学しました。
多くのプレッシャーもありましたが、正直、それもこの人生の一部だと考えています。学ぶことは必要だし、自己管理もきちんとしなくてはいけません。」

ー レースの合間など、どのようにリフレッシュしているのか教えてください。

「今は子供たちと過ごす時間だと思っています。子供を持つことは大変なことです。私には3人の男の子がいます。レースは重要だけど、それが人生のすべてではないと気づかせてくれます。だから、家に帰るといつも幸せです。

家では、8時間眠るようにしています。
睡眠は実際に身体にとって非常に重要です。まず、病気にならないことが大切で、トレーニングやフィットネス活動をたくさん行うときは、眠る必要があります。眠らないと回復が良くなく、その結果、たくさんトレーニングしても身体がうまく改善できないためです。身体は非常に複雑です。よく食べなかったり、よく眠らなかったり、よくトレーニングしなかったりすると、簡単に頭打ちになり、良くなりません。
基本的には、目を醒まして光を浴び、適切なタイミングで直接食事をすることが非常に重要です。可能であれば、いつも同じ時間に食事を摂るようにし、常に健康的な食事を心がけています。」

ー レースが怖いと感じることはありますか?

「いいえ、ドライブそのものを怖いとは思いません。ただ、期待した結果を出せないこと、失敗すること、自分が十分でないことを恐れることはあります。それは運転が怖いということでははありません。怖がっていると速く走れませんからね。限界に挑戦することもできませんから。」

ー なぜフォーミュラEに参戦することを決めたのですか?

「トヨタとともに耐久選手権に参戦していて、年間8~10戦ほどある中で、2014年に立ち上がる新しいシリーズにあるチームから声がかかりました。良いチームだと感じていましたし、このチームであれば確実に優勝を狙えると思ったのです。それで、仕事の合間にもう少しレースができるなら、年間18~19戦になるけれど大丈夫だろうと思いました。もっと多く走れるならいい、と考えました。ドライバーは走り続けるべきですし、僕は常に運転していたいのです。走れば走るほど上手くなると思い、参加を決めました。当時はマシンもシリーズも未知だったので、特に期待値は設定しませんでした。
参戦してみると、このシリーズが大きな可能性を秘めている理由がすぐに分かりました。市街地で開催されるイベントの魅力もあって、初参加で好成績を収めたうえにチャンピオンを獲得しました。するとルノー、ポルシェ、メルセデス、BMW、アウディ、ジャガーなど、多くのメーカーが参入してきました。
シリーズは発展を続け、私はそのまま参戦し続けましたが、もともとはもっと多くのレースを走りたいと思っていたのです。電動かどうかは気にせず、とにかくもっと多くレースができる良いシリーズだと思い、最初から参戦を決めました。
とても忙しくはなりますが、全力を尽くしています。もちろんバランスを取る必要があります。やり過ぎて疲れてしまうのは良くありません。ポジティブに続けられるよう、自分自身をうまくマネジメントする必要があります。僕にとっては明らかに良い経験で、参戦を決めて正解でした。

ー キャリアでの最大のチャレンジは何でしたか。また、それをどうやって乗り越えたのですか。

Sébastien Buemi 「たくさんの「チャレンジ」を経験したと思います。どれを選ぶかは難しいですね。
僕の最大のチャレンジは、自信を持ちつつも謙虚でいるというバランスをどう取るかでした。
成功できない時や、物事がうまくいかない時、自分を責めすぎてしまいがちです。また、自問自答することは大切ですが、「自分は最高だ」と思い込むのは危険です。うまくいかないときに他人のせいにしてしまいますから。一方で、自分を責めすぎるのも良くありません。

物事が思うようにいかないとすぐに「自分には才能がないのか」と悩んでしまうのですが、レースはチームスポーツで、良いマシンがなければ、どんな名ドライバーでも奇跡は起こせません。
だからそのバランスを見つけるのは簡単ではありませんでした。
自分を信じることと同時に適度に自問すること、そのギリギリの塩梅を見つけるのが最大の挑戦でした。
多くのドライバーが勝てないとすぐに「マシンのせいだ」と言いますが、それも正しい態度ではありません。ドライバーもチームの一員であり、仲間やエンジニア、メカニックが最高のパフォーマンスを発揮できるよう引っ張るのが仕事です。モナコで勝ったとき、チームの士気は一変しました。「やればできる」「勝者だ」と信じるようになり、雰囲気が劇的に変わったのを感じました。
ドライバーとしては自分を問いつつ、より良くなりミスから学ぶ必要がありますが、同時にチームには「できる」と信じてもらわなければなりません。ドライバーとしてその両面のバランスを取るのが、僕にとって最大の難題でした。

ー チームのコンディションはいかがですか。

「とても良いです。ただし気を引き締めて謙虚に臨む必要があります。決して簡単ではないので、努力を続けます。」

ー これからのレースもよい結果を期待しています。改めて、本日はお越しいただきありがとうございました。

 

* Monaco E-Prix Race 2で優勝。来日はその直後。

 

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