EPOS4シリーズで緊急的にモータに大電流を流し続ける方法
EPOS4シリーズでは「Nominal Current(最大連続トルク)」の他に、「Max.Output Current(Output current limit, 最大出力電流)」を設定でき、短時間に限りMax.Output Current(Output current limit)で設定した電流を流すことができます。モータへ流した電流は積算値としてEPOS4内部で管理され、適切な設定をしている限りモータは焼損しないようにコントロールされています。しかし状況によっては、リスクを覚悟で大電流を長時間流したい場合もあると思います。
例1:移動ロボットに搭載しており、そのロボットがスタックしてしまった。そこは危険区域であり人間が回収できないため、壊れてもいい覚悟をもって出せる限りの力で脱出を試みる場合。
例2:使い捨てにするシステムで、極めて短時間だけ動作すればよい。かつシステムは出来るだけ小型にしたい場合。
このような場合に、モータ、EPOS4ともに破損するリスクを取り、モータに大電流を流し続ける方法を紹介します。
本コラムは、機能や動作をmaxonが保証するものではなく、また本コラム記載の動作をさせた場合の機器の破損等についてはmaxonでは責任を負うことができませんので、予めご理解の上でご覧ください。
(1) EPOS4での通常の設定・動作
構成例:モータ:272763 EC-max30 60W
モータドライバ:541718 EPOS4 Compact 50/5 CAN
・Nominal Current(0x3001,0x01 )モータの「最大連続電流」 → 2660mA
・Max.Output Current(Output current limit, 0x3001,0x02)EPOS4からモータへの最大出力電流 → 5320mA
・Thermal time constant winding(0x3001,0x03) モータの「巻線熱時定数」 → 2.7 s(27→後述参照)
「Max.Output Current」を「Nominal Current」の2倍で設定している場合 → EPOS4内部で算出される係数:0.3
2.76 s(巻線熱時定数) × 0.3(係数)=0.828 s → 0.828sだけ5320mAが流れ、その後2660mAに戻る。
※参考:「Max.Output Current」を「Nominal Current」の xx倍に設定した場合の、係数について、
4倍の場合 → 係数:0.1
3倍場合 → 0.15
2倍の場合 → 0.3
1.5倍の場合 → 0.6
1.25倍の場合 → 1
Thermal time constant winding(巻線熱時定数)が適切に入力されていれば、算出された係数と共に、EPOS4はモータへの電流を制限するためモータが焼けることはありません。しかし、短時間だけ大きい電流が流れ、その後すぐに電流を下げしまうため、挙動がつかみづらいということもあります。 またモータは常に若干の余力が残っている状態となります。
(2) 緊急時に、出せる限りの力で脱出を試みる場合の設定例:
構成例(同上):モータ:272763 EC-max30 60W
モータドライバ:541718 EPOS4 Compact 50/5 CAN
緊急時には通信経由で例えば以下のようにパラメータを書き換える。
・Nominal Current(0x3001,0x01):5000mA(設定可能最大値)
・Max.Output Current(Output current limit, 0x3001,0x02):15000mA(設定可能最大値)
・Thermal time constant winding(0x3001,0x04):1000 s(10000)(設定可能最大値)
※設定可能最大値である「1000s」を入力する場合、EPOS Studioの「Start up Wizard」で入力する場合は「1000」とそのまま入力。オブジェクト「0x3001, 0x04」に直接書き込む場合は「10000」を入力します。
(オブジェクトへの直接入力では、小数点第一位を一桁繰り上げて入力。例:2.7sの場合、27と入力)
この場合、「Max.Output Current」を「Nominal Current」の3倍で設定することになるため、係数は0.15となります。
1000 s(巻線熱時定数) × 0.15(係数)=150 s
すなわち15A の電流を150秒間モータに流そうとします。ただし、15Aが流れる限界時間は、「541718 EPOS4 Compact 50/5 CAN」の場合、ハードウェア的には一応 「3秒以下」と定められております。(Hardware Specificationに記載)
ファームウェアとしては15Aを150秒間流そうとしますが、次のいずれかの理由で150秒経たずに停止する可能性が高いです。
・モータが焼損する。またそれに伴ってEPOS4側で出るエラー(過電流エラー、センサーエラー、等)
・EPOS4の出力段が規定以上の温度になり、熱エラーが出る。
・EPOS4がオーバーロードで物理的に破損する。
本方法は、モータ、EPOS4共に破損のリスクが極めて高い方法であるため、あくまでも 「どうにもならない緊急事態の、一発勝負の措置」 あるいは 「一回だけ動けばいいものへの適用」 としてお考え下さい。 また、これらの動作をさせた後のモータ、及びEPOS4の健全性は保証できません。
同様の設定はEPOS/EPOS2シリーズなど他のEPOSシリーズでも可能ですが、設定値の範囲や書き込むオブジェクト番号などが異なります。お試しになりたい際はお問い合わせください。
(TAKA)