12.特殊な要求条件(2)
12.3 低気圧または真空環境での動作
真空の種類
真空度には種類があります。真空に対する要求は用途によって異なります。例えば、半導電層は、不純物を避け、意図しない混ぜ物を入れないため、真空度の高い(表12.2参照)ダイで形成させます。しかし、実際の形成工程では数ミリバールの気圧が発生する可能性はあります。
真空度 | 気圧 | 分子 | 平均自由行程 |
低真空 | 300…1 hPa | 1019 … 1016 cm-3 | 0.1 … 100 μm |
中真空 | 1…10-3 hPa | 1016 … 1013 cm-3 | 0.1 … 100 mm |
高真空(HV) | 10-3…10-7 hPa | 1013 … 109 cm-3 | 10 cm … 1 km |
超高真空(UHV) | 10-7…10-12 hPa | 109 … 104 cm-3 | 1 km … 105 km |
極超高真空(EHV) | < 10-12 hPa | < 104 cm-3 | > 105 km |
表12.2:真空度 変換式:1 bar = 1000 mbar ~ 1,000 hPa ~ 760 torr.
困難な課題
真空中で動作させる場合、基本的に課題は2つあります。ドライブの特性が真空と課せられた要求の影響を受けることと、真空条件の品質がドライブによって悪化する可能性です。
真空中または非常に低い気圧中で、熱を対流放熱させるだけの空気がありません。熱は熱伝達で放熱することしかできません。モータ内の一般的な温度差を想定すると、放射による放熱は少なく無視できます。しかしモータの性能データは、大気中での対流による放熱を想定した仕様になっています。真空中での動作では対流による冷却は少なくなり、モータ内部で発生する高温が許容範囲を超えるリスクが高まります。
真空中での高い蒸気圧によって発生するベアリングやコミュテータの潤滑剤の蒸発は、製品サービス寿命を著しく悪化させます。さらに、グラファイトブラシでの整流の際、コミュテータの酸化銅被膜を適正に形成するために必要な湿度や酸素が存在しなくなります。その結果、これらのモータはサービス寿命を著しく低下させます。
有機材料(潤滑剤、プラスチック、表面塗装、接着剤)のアウトガスは真空を汚染します。これは、HV以上の真空度(半導体製造)を要求する用途では特に意味があります。真空は光学プロセスでもよく使用され、これはグラファイト整流で発生するグラファイト塵埃によって悪影響を受ける可能性があります。
推奨
真空中での動作では、特殊モータがしばしば必要となり、下記の検討が必要です。
― 可能な場合、放熱を促進するためにモータを金属部品に取付。
― ブレイコートのような低蒸発率の特殊潤滑剤を備えたボールベアリングの使用。
― デメリットは高粘性と高い無負荷電流; 高速には不向き。
― ブラシレスDCモータの使用。
― ブラシ付DCモータが必要な場合、含浸ブラシ材料を備えたグラファイトブラシを使用(真空対応の潤滑剤)
― 焼結スリーブベアリングまたは貴金属ブラシは、潤滑剤が蒸発するため不使用。
12.4 航空宇宙用途
マクソンモータの特性(1章参照)は、航空宇宙用途に非常によく適合します。高い電力密度はドライブを小型化し、スペースと重量を節約します。高効率と低損失は、限られたエネルギー資源の有効活用を可能にします。無視できるほど小さい電磁妨害は宇宙用車両の設計を簡素化し、システム全体の信頼性を強化します。
しかし、宇宙であることに起因する課題も多く、これらは詳細に調査が必要であり、カスタム仕様の解決策を要求されることもよくあります。
真空
宇宙では、真空中と同じ制約が当てはまります。恒星間の宇宙の真空は通常、地球上で生み出されるどのような真空状態よりも真空度が高く、平均してcm³あたり1個の粒子しかありません。しかし、天体の近傍では(惑星および星)、特に地球上のように、気圧(混合物?)がまだ存在する場合、条件は非常に急激に変化します。
製品サービス寿命と信頼性
実際の製品サービス寿命は、宇宙用途では多くの場合、非常に短くなります。ここで非常に困難な課題は、打ち上げ時と恒星間飛行の間の極端な環境条件に打ち勝ち、そして、1回限りであっても絶対的な信頼性を発揮し、数か月後数年後に起動させ数秒間完璧に動作させることです。材料の経時変化、特に潤滑剤と電気部品を特に検討する必要があります。
温度
大気圏外では、温度は非常に低いですが、非常に大きな温度差もあります。例えば、火星では、温度範囲は、夜間の-120°Cから、日中の+25°Cまでになります。これらの極端な条件下では、特殊潤滑剤を使用します。
強い機械的ストレスを誘発する可能性があるため、材料によっては温度膨張率の検討も必要です。チタンはアルミの代わりに耐力部品として、鋼と同じ温度膨張を得るために利用されます。電気部品を適した回路基板上へ接着する場合にも留意が必要です。温度に誘発された機械的ストレスによって不可逆に損傷する可能性があるためです。
振動と衝撃
これらは、主に離陸と着陸の間に発生し、途方もなく大きくなる可能性があります。
イオン化とUV放射
イオン化とUV放射の発生源は帯電した粒子、太陽フレア、そして太陽風です。地球の周囲の磁場は、我々をこの攻撃から保護し、放射線をヴァンアレン帯の中に留めています。ほとんどの衛星は 放射線の値の高い領域で地球を周回しますが、宇宙プローブは打上げ時、この放射線を通過しなければなりません。
イオン化する放射線の影響で発生する可能性があるのは、電子部品のショートと破壊です。ここで、対策として、特殊な対放射線部品または広域な半導体構造を持つ旧型電子部品を利用することがあげられます。
ケーブル絶縁材のようなプラスチックの経時変化プロセスに与えるUV放射の影響も調査が必要です。その他のプラスチック、例えばPVCの代わりにTeflonを利用することもできます。