7.ステップ5:モータの選定(6)
7.5 マクソンモータの製品概要と性能
動作範囲
マクソンモータの連続運転範囲を決定づけるのは、最大許容回転数nmaxと最大連続トルクMNの2点です。この範囲内では動作点は、温度的には特に重要ではなく、一般に、ベアリングまたは整流システムの摩耗量が増加することもありません。
図 7.5:マクソンモータの運転範囲図
連続運転範囲(赤)、短期間運転範囲(白)
最大連続電流と最大連続トルク
マクソンモータの最大連続電流は、モータが過熱することなしに連続印加できる最大電流値です。最大連続トルクは、これに対応するように、最大許容連続トルクとして定義されます。
モータ電流によって巻線内に発生する熱は、磁性帰還パス(ハウジング)とフランジを介して、外気中に放熱されます。温度の観点から見た場合、非常に重要な部品は鉄心のない巻線構造です。このコイル方式では、最高巻線許容温度Tmaxを超える温度では、最終的にモータの故障につながる変形を発生する場合があります。マクソンECモータとグラファイトブラシDCモータは、許容電流負荷が高く、巻線はグラスファイバ接着によって強化されています。これによって、巻線温度は125°C(分離型構造の場合は155°C)まで耐えることができます。貴金属ブラシで整流するモータの場合は比較的低い電流負荷用に設計されており、巻線温度は85°Cまで耐え、接着テープを使用することによってコイルの安定性が保たれます。
連続動作では、発生した温度損失が放熱でき、またロータ温度が最大許容値以下を維持するように、電流値を制限する必要があります。基準条件(外気温25°C 、フランジからの放熱なし、空気の対流の制約なし)で最大巻線温度に到達する電流値が最大連続電流INです。モータ電流がIN 以下の場合、巻線温度は低くなり、電流が高くなれば巻線温度も高くなります。
放熱効果の高い表面や強制空冷などのヒートシンクを追加(図7.3参照)することによって放熱効果が改善されれば、連続運転範囲は、高トルク、高電流値に広げることができます。このような場合、整流システムもこれらの高電流値に合わせ、設計しなければなりません。
最大連続トルクMNと最大連続電流INの意味は等価です。INは使用するワイヤ径に強く依存する一方、MNは実質的にモータ・タイプに依存します。したがって、MNはモータ・タイプの特性値であり、重要な選定判断基準でもあります。カタログの中のモータの図(厳密には1つの巻線に対してのみ表示)は同タイプの全巻線を近似する上である程度まで適用可能です。
(電流スケールは除きます)
大径ワイヤ(低い抵抗値)を使用するDCモータの最大連続電流は、ブラシシステムによって制限されることがあります。この場合、整流はエージングをせずに高電流を扱うことはできません。したがって、これらの巻線の最大連続トルクは、このモータ・タイプの通常の場合より低くなります。
最大許容回転数
DCモータの最大回転数は、整流システムによって制約されます。 非常に高回転の場合、コミュテータとブラシは急速に摩耗し、モータの製品寿命は短くなります。この現象には理由が2つあります。動作スピードが早くなると機械的摩擦が増加し、ブラシ跳ねが増加し、電気的腐食によって摩耗量が増加します。回転数が上がると誘導電圧が高くなり、アーク放電の発生が顕著になります。コミュテータの周速度をできるだけ低く保ち、高回転でも確実に整流をなめらかにするため、コミュテータ直径はできる限り小型に設計します。最大許容回転数nmaxは、コミュテータの最大周速度の経験値とコミュテータ直径から算出します。最大許容回転数以上での運転は可能ですが、モータ製品寿命は非常に悪化します。
ECモータの場合、最大許容回転数の決定要因には下記が含まれます。
― ロータのアンバランスの許容値
― 使用するベアリングサイズに依存する許容最大ベアリング負荷
― 20,000動作時間のベアリング要求製品寿命
― 高回転数時、遠心力の影響によるロータ(マグネット)の機械的安定性
短期間運転
巻線の温度反応時間(数秒)は比較的低いため、短時間の断続的な電流スパイクは最大連続電流IN を超えても許容されます。最高巻線許容温度Tmaxを超えない限り、巻線が損傷することはありません。トルクの上昇(または過負荷)の断続時間が適用できるのは、一定の時間内の場合だけです。過負荷に許容持続時間の上限値は、最も小型のマクソンモータ(直径10-13m)の場合で数秒以内、比較的大型のモータ(直径60mm、75mm)の場合で1分程度です。巻線の熱時定数は、断続的な、または短時間の許容過負荷の長さを求める際に使用されます。
図 7.6: モータの過負荷トルク(電流)短期間運転の許容長さ
(時間軸は巻線τW の熱時定数の単位でモータ特性を示します。負荷はモータの最大連続トルクの単位で示す)モータが最大連続トルクの2倍以上で動作する場合、負荷動作に対する許容持続時間は激減する点に留意が必要です。許容動作と許容されない断続的動作の間で緩やかに遷移していることは、温度インターフェースを詳細に検討することも必要なことを意味します。
許容過負荷の持続時間を正確な算出は、モータ電流と起動時の巻線温度によってほぼ決まります。
図7.6は単純化した図ですが、温度的に問題があるのか無いのかを判断するには、ほとんどの用途において充分です。全てのモータに適用できる図にするために、負荷と負荷の持続時間が、モータ-特有の単位系で表されています。巻線の熱時定数が4秒と想定すると、4倍の過負荷であっても、許容できるON周期はまだ1秒以上あることになります。高頻度の始動プロセス、ブレーキプロセス、短時間の動作は非常に短時間の為、熱の観点からみればモータは最大連続トルクの数倍の過負荷に耐えうります。